
【書評】『稼ぎ続ける ひとりコンサルの教科書』 ―― AIに勝つのではなく、AIが触れない場所で稼ぐ
『稼ぎ続ける ひとりコンサルの教科書』(山内栄人 著/日本実業出版社)。帯にはこうあります。「誰とも組まずに結果を出すにはAIが教えない『泥臭さ』を身につけること」。AIの可能性を毎日のように語っている僕にとって、この「AIが教えない」という一言は、反論ではなく、考える価値のある問いとして残りました。AIが賢くなるほど、人間の仕事はどこに残るのか。その答えを、現役の経営コンサルタントが現場の言葉で書いている。実務家として、これは確かめておきたいと思いました。
この書評を最後までお読みいただくと、「ひとりで稼ぎ続ける」という働き方の設計図と、「AI時代に人間が残すべき仕事の輪郭」が、ご自身のこととして見えてくるはずです。
目次[非表示]
- 1.この本はどんな本か ―― 個人で生き抜くための「サバイバルの書」
- 2.核心①「力相応一番化」 ―― 全部できる人より、一つで一番の人
- 3.核心②「営業しないで受注する」 ―― お願いするのではなく、お願いされる
- 4.核心③「うちの会社」 ―― 御社と呼ばない人の覚悟
- 5.核心④「ネットにない情報こそ鉱脈」 ―― AIに代替されない仕事の正体
- 6.核心⑤「正々堂々と稼ぐ」 ―― 信用は、お金では買えない資本
- 7.本の専門語を、生活の言葉に翻訳してみる
- 8.読む前に知っておきたい一言 ―― 「泥臭さ」とAIは組み合わせられる
- 9.明日から取り入れられる、たった一つの一手
- 10.まとめ ―― 学びは、取り入れて初めて自分のものになる
この本はどんな本か ―― 個人で生き抜くための「サバイバルの書」

まず、この本の立ち位置を整理しておきます。
著者の山内栄人さんは、人材派遣業界に特化した経営コンサルタントです。社員を一人も雇わないまま、起業3期目で8000万円超の売上を実現された方だと、本書で紹介されています。対象読者は、これからコンサルタントとして独立したい人、あるいはすでに独立している人です。
特徴的なのは、著者が冒頭で立場を明らかにしている点です。『はじめに』にはこうあります。『本書には、一般的コンサル本にあるようなフレームワークやコンサルティング理論の類は載っていません。潔くカットしています』。
つまり、きれいな戦略論の本ではありません。先行きの見えない時代に、組織に頼らず「個人」の力で生きていくための、実地の「サバイバルの書」です。著者の言葉でいえば「泥臭い」話の連続なのですが、その泥臭さこそが、この本の栄養になっています。
この本の出発点には、一つの危機感があります。序章で著者は、有料版のAIに課金する経営者がすでに半数を超える時代だ、と指摘します。法律であれ業界知識であれ、「知識」と「経験」をもとに答えを返す先生稼業は、遠からずAIに代替される ―― 著者はそう言い切ります。だからこそ本書は、「では、AIに代替されないコンサルタントとは何者か」という問いを軸に最後まで進んでいきます。AIを否定する本ではなく、AIの存在を前提に置いたうえで人間の仕事を再定義する本だ、と読むのが正しいと思います。
僕がこの本に惹かれたのは、内容が一貫して「自分ごと」で書かれているからでした。評論ではなく、自分が現場で掴んだことだけを書いている。読み手としての安心感が、最初の数ページで生まれます。
そして、この本が効くのは独立志望の方だけではないと感じました。会社員として「自分のキャリアは、これから誰が育ててくれるのか」と立ち止まっている方。専門性は持ちながら、それをどう価値に変えればいいか分からない方。AIの進化を前に「自分の仕事は残るのだろうか」と不安を抱
える方。そうした、組織の内側にいる人にこそ届く一冊です。著者自身、本書を「かつての自分(=元サラリーマン)の未来を、少しでも明るくしたい」という思いで書いた、と述べています。
核心①「力相応一番化」 ―― 全部できる人より、一つで一番の人

本書の背骨になっている考え方が、第2章の「力相応一番化(ちからそうおういちばんか)」です。著者が前職の船井総合研究所で学んだ戦略だと紹介されています。
言葉だけ見ると、少し難しく聞こえますね。要点はこうです。「全方位に強い優等生」を目指すのではなく、「自分の経験を掛け算して、狭い土俵でいいから確実に一番を取る」という考え方です。
著者は、これを富士山のたとえで説明しています。『日本で一番高い山は?』と聞けば誰もが「富士山」と即答できる。ところが『2番目に高い山は?』と問われると、途端に怪しくなる。一番と二番のあいだには、それほど大きな差があるのだ、と(ちなみに二番目は北岳だそうです)。
見事だと思ったのは、著者ご自身の「絞り込み」の実例です。
- 業種を絞らない経営コンサルタント……数万人の中の一人
- 人材派遣会社向けに絞る……100人の中の一人
- 元・派遣会社の実務経験あり……さらに半数に
- 請負・BPOの立ち上げ支援までできる……数人に
- 営業・採用・WEB支援まで含めると……ほぼ日本に一人
自分の過去のキャリアを一枚ずつ重ねていくと、「気づけば、その土俵には自分しかいなくなっていた」というわけです。
料理人が「和食もイタリアンも中華もできます」と言うより、「この地域の、この食材の、この一皿なら誰にも負けません」と言い切るほうが、お客さんの記憶に深く刻まれる。間口を広げるほど顔がぼやけ、絞るほど輪郭がはっきりする。この逆説が、ひとりで戦う人の出発点になっています。
核心②「営業しないで受注する」 ―― お願いするのではなく、お願いされる

第3章で語られる受注の考え方も、腑に落ちました。
著者は、コンサルティングを「特殊なサービス業」だと言います。なぜなら、『こちらから「コンサルティングをさせてください」とお願いするのではなく「コンサルティングをしてください」と乞われて実施するのが原則』だからです。
頭を下げて受注すると、まず値下げを求められ、立場も弱くなり、結果としてクレームにつながりやすい ―― これは、多くのサービス業に通じる、苦い真実だと思います。
では、売り込まずに、どうやって相手から「お願いします」を引き出すのか。著者が勧めるのが、セミナーと勉強会という「導線」です。流れを整理すると、こうなります。
- セミナーで「先生」として知ってもらう
- アンケートから「無料経営相談」につなげる
- 月額数万円ほどの「勉強会」に入ってもらう
- 毎月会ううちに信頼が育ち、コンサル契約に至る
この設計の巧みなところは、勉強会という仕組みが「お金をいただきながら営業ができる場」になっている点です。著者はこの勉強会だけで、最盛期に年間4000万円規模を生み出していたといいます。しかも会費は1年分の前払い制。これがキャッシュフローを安定させ、来期の見通しが立つことで、経営者としての精神的な余裕にまでつながる、という流れまで丁寧に書かれています。
いきなり高価な本商品を売るのではなく、まず気軽に試せる定期講座でファンになってもらう、サブスクの発想そのものです。専門用語でいえば「プッシュ型ではなくプル型の営業」、つまり追いかけて売るのではなく、向こうから近づいてきてもらう設計ですね。
もう一つ唸らされたのが、「書籍の執筆こそコンサル受注の最強ツール」という指摘です。本を出すと業界内での見え方が変わり、有名企業からの打診が増えたと著者は振り返ります。信頼を一冊の形にして「向こうから問い合わせが来る」状態を作る、究極のプル型と言えるでしょう。本書そのものが、その戦略の実践でもあるわけです。
核心③「うちの会社」 ―― 御社と呼ばない人の覚悟

第4章で、僕がいちばん背筋が伸びたのが、この「呼称」の話でした。
ふつう、取引先のことはビジネスの世界で「御社」と呼びます。ところが著者は、顧問先のことを『うちの会社』と呼ぶといいます。外にいる業者ではなく、内側にいる一員だから「うち」なのだ、と。
そして著者は、契約したらその会社の『勝手社外取締役』に就任したつもりで働く、と宣言します。頼まれてもいないのに、役員のつもりで全身全霊で関わる。この覚悟が、本書の温度を上げています。
その現れの一つが、独自に編み出したという「車格(しゃかく)マネジメント理論」です。人を「車」にたとえて捉える方法で、セダン、ミニバン、軽自動車 ―― 人それぞれにエンジンの大きさも、得意な走り方も違う。だから、無理に全員へ「160キロ出せ」と迫るのではなく、その車に合った速さの出し方を一緒に考える。お金をかけてエンジンを強化する(研修・資格)のか、不要な荷物を降ろして身軽にするのか、前を走って手本を見せるのか。
これは、経営でいう「長所伸展(短所を直すより、得意を伸ばす)」を、誰にでも分かる比喩に落とし込んだものだと感じました。著者は船井幸雄氏の「長所伸展」の考え方に強く影響を受けたと書いており、社員の短所は基本的に「無視」し、長所を探して伸ばすことに徹する、とまで言い切ります。人を欠点で値踏みするのではなく、持ち味で活かす。AIの話を抜きにしても、チームを率いるすべての人に効く視点です。
もう一つ印象に残ったのが、画面越しではなく現地に足を運ぶ姿勢です。著者はオンラインの効率より、現地・現物・現実を自分の目で見る「三現主義」を優先します。非効率を承知のうえで会社に入り込み、社員一人ひとりと面談し、退職を相談されれば「引き止めありき」ではなく、その人の人生にとって何がベストかを一緒に考える。コンサルタントの仕事を、報告書づくりではなく「人と向き合うこと」だと定義し直しているのです。
この姿勢を支えているのが、徹底した時間の使い方です。訪問コンサルの日は朝4時に起きて始発で向かい、丸一日を費やす。お酒が飲めない体質でありながら、夜は社員との懇親会にも顔を出す。社員の本音は、業務時間中のヒアリングではなく、こうした場でこそ出てくるからです。研修後に社員一人ひとりから届くレポートにも、宛先にCCで社長や管理職が並んでいても、毎回、全件、自分の手で返事を書くのは著者だけだといいます。仕事への誠実さが、抽象論ではなく一つひとつの行動として描かれている。それが、この本の説得力の源泉になっています。
核心④「ネットにない情報こそ鉱脈」 ―― AIに代替されない仕事の正体

僕がこの本を手に取った最大の動機が、第5章「AIに代替されないコンサルティングとは」です。
著者の論はシンプルで、力強いものでした。『AIは主にインターネット上にある情報をもとに推察して回答しているに過ぎない』。だとすれば、ウェブ上にない情報こそ「未知の重要な情報」であり、そこにコンサルティングの鉱脈がある、と。
具体的には、こういう情報です。
- 訪問しないと分からない、その会社の「空気」
- 社員が公の場では決して書かない本音
- 夜の懇親会で、ようやく出てくる相談
- 経営者本人も気づいていない、ある社員の隠れた長所
これらは、ネット上のどこにも公開されていません。だからAIには拾えない。著者はこれを『誰もが進んでやらない泥臭いことが基本であり最重要ミッション』と言い切ります。
さらに鋭いのが、「答え」がわかってもそれだけでは動けない経営者が数多くいる、という指摘です。著者の例えがわかりやすい。社員全員で兵庫県から東京駅に向かうと決まっても、電車か飛行機かを選び、切符を買い、乗り換えの段取りを組まなければ、誰も動けません。本にもAIにも「答え」は載っている。けれど、その実行を支える人のニーズは、答えがありふれるほど、むしろ増えるかもしれない ―― この見立てには、僕も深く同意しました。
核心⑤「正々堂々と稼ぐ」 ―― 信用は、お金では買えない資本

本書を通読して、著者の人柄をいちばん感じたのは、終盤の第7章でした。タイトルは「喜ばれて正々堂々と稼げる仕事がコンサルティング」。この「正々堂々」に、著者の哲学が凝縮されています。
象徴的なのが、キックバックの話です。コンサルタントが顧問先に何かを導入させ、その販売元から紹介料を受け取る ―― 業界では珍しくないやり方だそうですが、著者はこれを一切受け取らないと明言します。受け取れる場面では、その分を『山内紹介特別値下げ』として、買う側の会社への値引きに回してしまう。
理由として、著者はこう書きます。本業ではない小さな利益のために、お金があっても買えない「信用」という関係性を失うのは非合理だ、と。
これは商売の本質を突いています。信用というのは、一度貯めれば勝手に増える「貯金」ではなく、毎日のふるまいで残高が増減する「当座預金」のようなものです。一回のごまかしで、何年もかけて積んだ残高が一気に消える。だから、目先の小銭で口座を傷つけない。ひとりで戦う人にとって、信用は文字どおりの資本なのだと腹落ちしました。
もう一つ面白かったのが「フルオープンであれ」という姿勢です。著者は、自社の売上や自分の資産状況を顧問先の経営者に隠さず話し、高級車も隠さず乗ってコンサルに向かうといいます。自慢のためではありません。『こちらがフルオープンで話をすると、相手も本音で相談してくれる』からだ、と。コンサルタントが「稼げていない医者」では、患者である経営者は安心して手術を任せられない ―― この理屈にもうなずかされました。
第6章の「自分自身をアイコンにする」工夫(白い眼鏡や個性的なジャケットといった、覚えてもらうための見た目の設計)も、突き詰めれば同じ思想の上にあります。ひとりで戦う人には、宣伝してくれる営業部隊がいない。だから、自分という存在そのものを記憶に残る「看板」にしていく。すべては「信用していただくため」の、一貫した設計なのです。
本の専門語を、生活の言葉に翻訳してみる
この本は平易に書かれていますが、それでもいくつか「業界の言葉」が出てきます。読者の方が置いていかれないよう、僕なりにやさしく言い換えた対応表を一つ、置いておきます。
本に出てくる言葉 | やさしい言い換え |
|---|---|
力相応一番化 | 自分の強みを掛け算して、狭い土俵で確実に一番になること |
専門特化 | 何でも屋をやめて、一つの業界・テーマに絞ること |
プル型営業 | 売り込まず、向こうから「お願い」と言われる流れを作ること |
実行支援型コンサル | 報告書を渡して終わりではなく、現場で一緒に動くこと |
勝手社外取締役 | 頼まれずとも「うちの会社の役員」のつもりで関わる姿勢 |
車格マネジメント理論 | 人を車種にたとえ、その人に合った力の出し方を考えること |
長所伸展 | 欠点を直すより、得意なところを伸ばすこと |
こうして並べてみると、本書の言葉はどれも「机上の理論」ではなく、足で稼いだ「現場の知恵」だということが、よく分かります。
読む前に知っておきたい一言 ―― 「泥臭さ」とAIは組み合わせられる

ここで一点だけ、著者へのリスペクトを込めて、僕なりの補足を添えさせてください。批判ではなく、「自分ならこの本をこう活かす」という温度の話です。
本書は「AIには当分できない領域がある」という立場で書かれており、その指摘はその通りだと思います。会社の空気も、社員の本音も、夜の席で初めてこぼれる悩みも、AIが自分で取りに行くことはできません。人間にしか拾えない情報がある、という著者の核心は、これからも正しいでしょう。
そのうえで僕が付け加えたいのは、「泥臭さ」と「AI」は、対立するものではなく、組み合わせられるものだ、ということです。
たとえば、著者が足で集めた「ネットにない貴重な情報」 ―― 社員面談のメモ、懇親会で聞いた本音、各社員の長所。これらは、人間が集めるしかありません。けれど、集めたあとに整理し、記録し、次の打ち手のヒントとして引き出す作業は、AIがとても得意とするところです。
言ってみれば、足で稼いだ宝物を、AIという敏腕の秘書に預けて管理してもらう。そうすれば、ひとりコンサルの「手」は何本にも増えます。著者がAIによる「答え」のありふれ化を脅威として見ているのに対し、僕はそれを「人間が泥臭く集めた一次情報の価値が、相対的にもっと上がる時代の到来」とも受け取りました。
これは、どちらが正しいという話ではありません。同じ景色を、別の角度から眺めているだけです。むしろ本書は「人間がやるべき泥臭い部分」をくっきり描き出してくれたからこそ、「ではAIに任せられる部分はどこか」という問いを、読者にきれいに残してくれたのだと思います。
明日から取り入れられる、たった一つの一手

学びは、取り入れて初めて自分のものになります。この本から、職種を問わず誰にでも効く一手を一つだけ選ぶとすれば ―― 僕は「自分の棚卸し」を挙げます。
著者は「力相応一番化」のために、これまで担当した仕事を、紙でもホワイトボードでもいいから、とにかく全部書き出すことを勧めています。どんな業界で、どんな職種で、何をやってきたか。その掛け算の先にしか、「自分だけの一番」は見つからないからです。
これは、独立を考えていない方にも有効です。ご自身の経歴を箇条書きにして、AIに「この経験を掛け算すると、私が一番になれそうな領域はどこ?」と相談してみる。著者の足で稼いだ知恵と、AIの整理力を掛け合わせる ―― それが、本書を「読んだだけ」で終わらせない、いちばんの活かし方だと思います。
本書の終盤で、著者は「たった一人の人間が、関わる業界や社会を変えていける」という、コンサルタントという仕事のポテンシャルについて書いています。大企業のトップに昇りつめなくても、自分の専門を磨き抜けば、関わる会社と、その先にいる社員の人生を、良い方向へ動かせる。これは職業の話というより、「ひとりの個人が持てる影響力」の話だと感じました。だからこそ、肩書きや業種を越えて、多くの人の背中を押す力があるのだと思います。
まとめ ―― 学びは、取り入れて初めて自分のものになる
冒頭で、僕はこの本を「AIが教えない泥臭さ」という帯の言葉に惹かれて手に取った、と書きました。
読み終えて感じたのは、これは「AIに対抗する本」ではなく、「人間が立つべき場所を教えてくれる本」だということです。全部で一番を狙わず、一つで一番になる。売り込まず、乞われる。御社ではなく、うちの会社と呼ぶ。そして、誰もやりたがらない泥臭いことを、手を抜かずにやり続ける。
それは派手ではありませんが、AIがどれだけ賢くなっても揺るがない、人間の足場のようなものでした。先の見えない時代に「自分の力で稼ぎ続けたい」と願う方にとって、心強い一冊になると思います。
気になった方は、一度手に取ってみてください。そして読み終えたら、心に残った一節を、AIと壁打ちしながら「自分用の実践プラン」に落とし込んでみるのもおすすめです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
学びは、取り入れて初めて自分のものになります。
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佐藤勝彦 / TANREN株式会社



