
【書評】『AIで作るプレゼン資料入門ガイド』 ―― 「丸投げ」ではなく「相棒」。資料づくりに溶けた時間を、自分の手に取り戻す一冊
今回取り上げるのは、けいたろうさん(@keitaro_aigc)の『AIで作るプレゼン資料入門ガイド』(SBクリエイティブ)です。
僕自身、プレゼンや資料づくりを長く仕事の根っこに置いてきました。だからこそ、「AIでプレゼン資料を作る」という旗印には敏感です。世の中の多くは「すごいツールを使えばこんなに速い」という機能自慢に寄っていきます。けれど本書は、そこからもう一歩奥に踏み込んでいる ―― そう感じて、最後まで読みました。
結論を先に申し上げます。読み終えると、「AIに資料を作ってもらう」という発想が、「AIと一緒に資料を作る」という発想に置き換わります。そして本書がいちばん大事にしている問い ―― 「空いた時間で、あなたは何をしたいですか?」 ―― が、自分ごとになります。
それでは、順を追って読み解いていきます。
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どんな本なのか ―― 「入門ガイド」という顔をした、働き方の本

まず、この本がどんな読者に向けて、どんな課題に応えようとしているのかを整理します。
著者のけいたろうさんは、ご自身を「AIの研究者でも、最先端を走る技術者でもありません」と紹介されています。長く事務系の仕事に携わり、40代になるまでプログラミングにはほとんど触れてこなかった ―― その立ち位置から書かれているのが、この本の特徴です。専門家が高いところから教える本ではなく、同じ目線で隣を歩いてくれる本になっています。
扱うテーマは「プレゼン資料の作成」です。営業提案資料、会議資料、報告書、セミナースライド。ビジネスパーソンなら誰もが、毎日のように何かしらの資料を作っています。本書はその資料づくりに生成AIをどう招き入れるかを、序章から第5部、そして付録まで、順序立てて案内していきます。
その順序が、よく練られています。「中身を作る(第1部)→ 図やグラフで見せる(第2部)→ スライドの形にする(第3部)→ 品質を上げる(第4部)→ 業務に組み込む(第5部)」。これは資料が生まれてから人前に出るまでの、自然な道のりそのものです。読み手が迷子になりません。
僕がこの構成で感心したのは、本が後半にかけて少しずつ高度を上げていくところです。第1部から第4部までは「個人がうまく資料を作る」話ですが、第5部に入ると視点が広がります。週次・月次レポートのような定型資料を仕組みで自動化し(5-1)、自分が貯めたノウハウを仲間へ、そして組織へと波及させ(5-2)、最終的には「AIドリブンな働き方」――AIを単なる道具ではなく協働者として迎える働き方――にたどり着く(5-3)。つまり本書は、「個人の技」を「組織の文化」へ橋渡しする階段として設計されています。「本当の効率化は、繰り返し発生する作業を自動化し、組織全体の生産性を高めることではじめて実現します」(5章冒頭)という一文に、その射程が表れています。一人の小さな成功が、いずれチーム全体の財産になっていく。この眺めの良さは、入門書の枠を気持ちよく超えています。
見逃せないのが、本書の出発点に置かれた一つのデータです。think-cell Japan社の調査によると、日本の会社員が資料作成に費やす時間は、就業時間の約18%。週40時間で換算すれば、週におよそ7.2時間。課長職になると、さらに増えるといいます(序章 0-1)。
「資料は仕事を前に進めるための手段のはずなのに、いつの間にか作ること自体が目的になってしまっている」。著者はこの違和感を起点に、本を立ち上げます。テクニック集の顔をしていますが、その芯にあるのは「働き方を見直す」という、もっと大きな問いです。
本書の核心 ―― 「正解がない」「知識がない」を、AIでほどく

本書の主張を、専門用語を使わずに要約してみます。
著者は、資料づくりに時間がかかる原因を二つに絞り込みます。一つは「正解がない」こと。もう一つは「知識がない」ことです。
「正解がない」とは、「基準が存在しない」のではなく、「基準が組織でそろっていない」という意味です。部署が変われば暗黙のルールが変わる。上司が変われば、求められる余白の広さも色づかいも変わる。「もう少し」「なんとなく」という曖昧な指示に応えようと試行錯誤を重ね、気づけば一枚のスライドに何日もかかる。著者はこれを「その時々の上司が正解、という属人的な世界」と表現します。誰かを責めるのではなく、構造の問題として静かに指摘しているところに、品の良さを感じました。
「知識がない」とは、デザインの専門教育を受けていないという、多くのビジネスパーソンに共通する事情です。余白の取り方も、色の選び方も、「なんとなく」でやるしかない。その「なんとなく」の積み重ねが、時間を溶かしていきます。
では、生成AIはこれをどうほどくのか。ここが本書の鮮やかなところです。
著者の処方箋は、「過去に『これは良かった』と評価された自分の資料を、AIに読み込ませて分析させる」というものです。AIは、その資料から余白の取り方、フォントの種類、配色のパターンといった特徴を抜き出し、一貫した「基準」として持ち続けてくれる。一度それを共有すれば、経験の浅いメンバーでも同じ品質の資料が作れるようになる。これまで「先輩の背中を見て覚える」しかなかった暗黙のコツを、誰もが使える形に書き起こす、ということです。
少し硬い言葉で言えば「暗黙知の形式知化」です。やさしく言い直すなら、ベテランの料理人が目分量でやっていた“さじ加減”を、レシピに書き起こす作業に近いと感じました。レシピになって初めて、新人さんも同じ味を出せる。属人的な勘が、チームの資産に変わります。
もう一つ、本書を貫く背骨があります。「AIに丸投げしない」という、終始ぶれない規律です。著者は人間とAIの役割を、こう線引きします。
「『考える』『判断する』『相手の立場を想像する』といったことは、今も人間にしかできない仕事です。一方で、『整える』『並べる』『形にする』といった作業は、AIが得意とする分野です」(「はじめに」より)
戦略を決め、どのデータを使うかを選び、最後に事実を確認して責任を負うのは人間。整え、並べ、形にするのはAI。この分担を「共創」と呼び、本書はあらゆる場面でこの一本の線を引き直していきます。便利さを語る本でありながら、「最終的な責任は、AIではなく、あなた自身が負う」と何度も念を押す。この誠実さが、僕がこの本を信頼した理由です。
特に役立つ5つのポイント ―― 必要な分だけ翻訳しながら

ここからは、特に役立つと感じた点を五つ、必要な分だけ身近な言葉に置き換えてご紹介します。
① 「5分で70点」を出す ―― 完璧主義を手放す
著者は、最初から100点の構成を考え込むのをやめましょう、と勧めます。
「5分で100点の構成を作ろうとするのではなく、5分で70点の構成を作り、後で調整する。そのスピード感が、生成AIの最大の武器です」(1-2)
いわゆる「叩き台」を先に出す、という考え方です。叩き台とは、完成品ではなく下書き・土台のこと。人はまっさらな紙の前では筆が止まりますが、目の前にたたき台が一枚あれば、「ここは違う」「ここはいい」と判断が進みます。先に70点を出せば、残りの30点は対話で埋まっていく。資料づくりに限らず、仕事の多くの場面で効く知恵だと思います。
② モヤモヤを「全部吐き出していい」 ―― 音声入力という発想の転換
その70点の叩き台を、どう生み出すか。著者の答えは音声入力です。思いついたことを、順番がバラバラでもいいから5分間しゃべって録音し、それをAIに整理してもらう。
「自分の中の、上手く文章にできないモヤモヤを全部吐き出していい」(0-6)
タイピングだと、つい「正しい文章を書こう」として思考が止まる。話すという行為なら、考える速さのまま言葉が出てきます。頭の中の散らかった引き出しを、いったん全部テーブルに広げて、整理整頓はAIに任せる。この役割分担が、資料づくりの精神的なハードルを下げてくれます。
③ ハルシネーションを「ヒント」と読み替える ―― 前向きな視点
生成AIには、もっともらしい作り話をしてしまう弱点があります。これを「ハルシネーション(幻覚)」と呼びます。多くの本はここを「だから危ない」と警告して終わりますが、著者の視点はひと味違います。
「ハルシネーションの部分は、情報の入力が足りていない部分を示しています。これが大きなヒントになります」(1-2)
AIが数字を勝手に作ってきたら、それは「ここに本物の数字を入れてください」という付箋のようなもの、というわけです。穴埋め問題の空欄が、自分の宿題のありかを教えてくれる感覚に近いでしょうか。もちろん、最終的な事実確認は人間の仕事だと釘を刺すことも忘れていません。弱点を頭ごなしに恐れるのではなく、付き合い方を見つける。この成熟した態度が、本書全体のトーンを落ち着いたものにしています。
④ 「言語化」こそがAI時代のデザインスキル ―― センスがなくても大丈夫
第3部のデザイン論で、僕がもっとも納得したのがここです。著者は、デザインの自信がなくても大丈夫だと言います。必要なのはセンスではなく、言語化の力だと。
「生成AIにスライドデザイン作成を任せる際、重要なのは『自分の意図を言語化すること』です」(3-1)
たとえば配色なら、いきなり色を乗せるのではなく「まずモノトーンで構成を固めてから、後で色をつける」二段階を勧め、色も「青」と曖昧に言うのではなくカラーコードで指定する、と具体的です。「なんとなく良い」を「なぜ良いのか」という言葉に変換する練習。それを積めば、AIへの指示は自然と的確になる。センスという、つかみどころのなかったものが、誰でも鍛えられる「言語化」という技に置き換わっています。
⑤ 「このスライドで責任を持てるか」 ―― 品質の最終ゲート
第4部では、AIに「評価 → 校閲 → 校正 → ブラッシュアップ」という品質向上のループを手伝ってもらう手順が示されます。客観的に判断できる部分はAIに一次チェックを任せ、文脈や専門性が絡む部分は人間が最終判断する。その線引きの結びに、こんな一文があります。
「最終的には『このスライドで責任を持てるか』という自問自答が重要です」(4-2)
そして著者は、自分のルールをこう明かします。
「『自分が説明できない内容』は、たとえ生成AIが提案しても受け入れないようにしています」(4-4)
AIがどれだけ立派な提案をしても、自分の口で説明できないなら採らない。借り物の言葉で人前に立たない、というプロの矜持がここにあります。便利さの本でありながら、最後は人間の責任に着地させる。この一貫性が、本書を単なるツール解説書から「働き方の本」へ押し上げています。
専門語をやさしい言葉に置き換える ―― 本書を読むための小さな辞書
本書には、生成AIならではの言葉がいくつか登場します。著者自身がていねいに噛み砕いてくれていますが、読書のお供にと、僕なりのやさしい言い換えを一覧にしてみました。難しそうな言葉でつまずく必要は、まったくありません。
本書に出てくる言葉 | やさしい言い換え |
|---|---|
生成AI | 指示すると文章も図も作ってくれる、優秀なアシスタント |
ハルシネーション(幻覚) | AIがもっともらしくやってしまう「作り話」。本書では「情報が足りない場所を教えてくれるヒント」と前向きに読み替える |
知識のカットオフ | AIが「いつの辞書で勉強したか」という賞味期限。これより新しい話は知らない |
コンテキスト | AIに渡しておく「前提のひとそろい」。料理でいう下ごしらえ |
叩き台 | 完成品ではなく、これから直していく「下書き・土台」 |
暗黙知の形式知化 | ベテランの“勘”を、誰でも使える「レシピ」に書き起こすこと |
エージェント型ツール | 段取りまでまとめて任せられる「敏腕の段取り役」 |
プレースホルダー | あとで中身を入れ替えられる「差し込み口」 |
役割分担・共創 | AIに丸投げせず、得意分野を出し合う「相棒」の関係 |
言語化 | 「なんとなく良い」を、伝わる言葉にほどくこと |
並べてみると、本書が語っているのは遠い技術の話ではないとわかります。台所の下ごしらえ、レシピ、相棒。どれも、私たちの暮らしの中にすでにある言葉で説明がつきます。
読む前に知っておきたい一言 ―― 「楽になる」の先にあるもの

これから読まれる方へ、建設的な補足を一つだけ。著者への異論ではなく、本書をより深く味わうための視点としてお受け取りください。
本書は「資料作成が楽になる」「時間が取り戻せる」という入り口から始まります。これは正しく、多くの人の背中を押す入り口だと思います。ただ、読み終えて改めて感じたのは、楽になることは目的ではなく、入り口にすぎないということです。
著者自身、そのことを序章で言い切っています。「資料作成の効率化は、単なる時短ではなく、働き方の質、そして人生の質を変える可能性を持っている」と。そして「空いた時間で、あなたは何をしたいですか?」と読者に問いかけます。
だからこそ、この本を手に取る前に、一つだけ用意しておいてほしいものがあります。それは、「取り戻した時間で、何をするか」という自分なりの答えです。新しい提案を考えるのか、顧客とじっくり話すのか、早く帰って家族と過ごすのか。そこが定まっていると、本書の一つひとつの技が、ただの時短術ではなく「自分の人生を自分でコントロールするための手段」として立ち上がってきます。
もう一点。本書は特定のツールに依存しない考え方を重視して書かれており、最先端のツール(ManusやNano Banana Proなど)は、あえて付録に分けて収められています。これは「本編の普遍性を守る」という編集判断で、見事だと思いました。読者としても、ツールの名前や画面の細部は移り変わる前提で、変わらない“考え方”のほうを持ち帰るつもりで読むと、何年経っても古びない一冊になります。著者が「2026年1月時点」と何度も断りを入れているのも、その誠実さの表れでしょう。
明日から取り入れる一手 ―― まずは議事録から

書評の最後に、本書から「明日すぐ試せる一手」を一つだけ紹介します。
著者は、生成AIに初めて触れる人への最初の題材として、スライドではなく「議事録」を勧めています。理由は三つ。自分が参加した会議なら出力が正しいか自分で判断できること、議事録は何を書くべきかイメージしやすくゴールがぶれないこと、会議の内容を整理するだけなので途中で手が止まらないこと(0-6)。
やり方はシンプルです。会議を録音し、その文字起こしをAIに渡して「これを議事録にまとめて」と頼む。出てきたものを見て、「決定事項と課題を分けて」「ネクストアクションを出して」と、足りない部分をその場で付け足していく。この往復が、AIとの付き合い方を体で覚える第一歩になります。
ここで著者が何度も強調するのが、この言葉です。
「成長が早い人と遅い人の違いはたった1つ、手を動かすか、動かさないかだけです」(0-6)
そして、
「まず、やってみよう」(「はじめに」より)
僕も、学びは「アウトプットしてはじめて自分のものになる」と考えてきました。本を読んで「なるほど」とうなずくだけでは、何も変わりません。けれど、今日の会議の議事録を一つAIと作ってみるだけで、景色は少し動きます。気になった方は、その小さな一歩から始めてみてください。
まとめ ―― なぜこの本を勧めるのか
冒頭で、この本に関心を持った理由を「機能自慢のもう一歩奥が見えた気がしたから」と書きました。読み終えたいま、その予感は確信に変わりました。
『AIで作るプレゼン資料入門ガイド』は、たしかにツールの使い方を教えてくれる実用書です。けれどその奥には、もっと普遍的なメッセージが流れています。すなわち、AIは主役を奪う存在ではなく、人間が本当に大切な仕事に集中するための相棒である、ということ。著者は「おわりに」で、こう言い切ります。
「AIは『道具』であり、主役はあなたです」(「おわりに」より)
「その試行錯誤の中にこそ学びがあります」(「おわりに」より)
そして著者は、もう一つ大切な気づきをくれました。プレゼン資料を作るという、多くの人が「仕方がない」と諦めていた時間を、楽にすること。それは「スライド文化を否定するのではなく、より楽に、より効率的にスライドを作れるようにする」(0-5)という、肯定の姿勢から生まれています。資料づくりを大切にしてきた一人として、この「否定せず、軽くする」という構えには共感しました。
非エンジニアの方、事務職の方、デザインに自信のない方 ―― かつての著者と同じ場所に立っている方にこそ、この本は届きます。40代からでも、プログラミングができなくても、「AIと少し仲良くなるだけで、見える景色は確実に変わっていく」。その言葉には、実際に変わってきた人だけが持つ、確かな手触りがありました。
僕なら、この本をどう活かすか。第5部の「自動化」と「ノウハウ共有」を起点に、チーム全員の資料品質を一段そろえる仕組みづくりに使います。個人の時短で止めず、組織の標準へ。本書はそこまでの地図を描いてくれています。
学びは、取り入れて初めて自分のものになります。この一冊が、あなたの「まず、やってみよう」のきっかけになりますように。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
学びは、取り入れて初めて自分のものになります。
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佐藤勝彦 / TANREN株式会社



